風待ちジェット
「あーあ、つまんなよう」
書類を手先で弄びながらイタリア・ヴェネチアーノが机に突っ伏した。長時間、椅子に座っていること自体が拷問であるに加えて、進まない会議は退屈以外の何者でもない。紙飛行機を制作しはじめた彼を、
「時間的には、あともうちょっとですから」
ね、とイタリアを諭してくれたのは隣の日本だ。柔らかく微笑んだ顔を見るためにイタリアは顔を上げて眼を合わす。相も変わらず纏う雰囲気は、昔に比べて柔らかい。表情もそうだけれども、出会った頃よりも硬さはなくなった感じで、
「しゃきっとしろ、イタリア」
腕を組んだ左隣のドイツが後を継ぐように言う。
「むーりー」
ふふ、と笑いながら手足を放り出して、また冷たいテーブルに顔をつけながら、今度はドイツを見る。
「なんだ」
「だって、三人一緒に並ぶのって久しぶりで嬉しいんだもん」
右手に日本、左手にドイツ、いつもは日本との間に兄のロマーノが居て、ドイツとの間にはプロイセンがいる。さらにドイツの隣にオーストリア、ハンガリー、フィンランドと続き、日本の隣にタイがくる。今日はG8なのでいないけれど、そういう順番に座れるようになって大分経つ。
「えっへへへ」
「そうですね、三人一緒は久しぶりですね」
紙飛行機を作り上げたイタリアの作品の近くに、日本の折り鶴が置かれる。
「まあな、それにしても会議が進まんな」
「日本のオリガミ好きー」
さすがのドイツも怒鳴る気力がないのか、遠目に議題から遠のいたことを言い争う他の国を見て、書類を弄くると足元の鞄に仕舞いこんでしまう。
「めずらしー」
「あと五分もないぞ」
イタリアは感嘆したように言ってから、自分も同じようにして、日本にも促す。
「これ、もらってもいい?」
「でしたら和紙を今度持ってきますよ」
二人を見て、もう帰る準備万端というように鞄を抱えた日本は、折り鶴を持つイタリアの手から引き取ろうとしたが、イタリアはこれでいいのっ、と言って返してはくれない。
「昔から日本の作ってくれたものは大切に持ってるんだー」
「もう、イタリアくんったら」
恥かしそうに笑う日本に、イタリアも笑い返す。
「でも、ワシっていうのも見たいであります!」
今度持ってきますよ、と日本は云う。それを聞いたドイツが静かに立ち上がって、
「……うむ、気づかなそうだな。帰るぞ」
「ドイツが不真面目だ!」
大事だよ、日本!、とイタリアは吃驚しながら日本に寄る。
「どうか、なさいました?」
「あー……そのだな、何でも早く帰って来いと兄貴に言われてな」
「プロイセンが? そういえば兄ちゃんもそんなこと言ってたなー」
そうなのですか、と日本は立ち上がって、気づきそうもない他の国を見てから一礼してドイツの後に続く。
「じゃあ、私は」
「日本も連れて来いと兄貴は言ってたぞ」
「何か、しましたっけ」
「折角ヨーロッパまで来たんだから俺ん家にも寄っててよー」
久しぶりに三人でご飯食べよ、とイタリアは日本の背中を押しながら退出しようと扉を開ける。
「帰るですかー?」
ひょっこりと廊下の隅からでてきたのはシーランドとカナダだ。誰、と三人が思う中、
「お帰りですか」
「あ、ああ、カナダか。会議室に居なくていいのか」
「ハハ、居なくても大丈夫ですから」
遠い目をしているところを見ると今回も忘れられているらしい。
「アメリカの奴は絶対気づいてるだろうけど」
ぽつりとつぶやいて、カナダは顔を上げて、お帰りですか、ともう一度言う。
「もう会議どころじゃないよー。で、帰ろうと思って」
あとちょっとで終わるよ、とイタリアは二人に言う。
「シー君が居ればすぐに決まるですよ!」
「そうですね」
くすくす笑いながらシーランドに飴を渡す日本は、そのままカナダとクマ二郎にも差し出して、
「そういうことですので、お先に」
「わ、いいんですか、いただきます、じゃあ、また」
「アリガトナ」
早く早くとイタリアが押すので、自然にドイツの背を押す形になる日本、それのせいで早歩きになるドイツは二人と一匹に手だけあげて断ると、そのまま帰路を辿ることにした。
帰る道すがら鼻歌交じりのイタリアを先頭に、ドイツ、日本と続いていると、はっと気づいたようにイタリアが戻ってきて「両手に花ー」と嬉しそうに言いながら二人の腕を掴んで走り出す。
「い、イタリア君!」
「こら、イタリア!」
スーツのまま走れば、もうすぐ秋と云えど暑い中、太陽の照らす道を走り抜ける三人は汗が出てくるのもいとわずに、段々と笑いが込み上げてくるらしく、そのままイタリアの家まで疾走する。
日本が二人の歩幅についていけなくて躓きそうになればイタリアとドイツが両手を受けとめて引き上げ、イタリアの息が切れてきたら他の二人が。
書類が一杯詰まった鞄は重いけれど三人は駆けてくる。もうすぐ家だと云うところで三人して体力がなくなって、ドイツが身体を追って荒く息をする。
「は、ここ、まで、は、やはり、つらい、な」
全身で息を切らしながら、ふと同じように息を切らした二人を見上げる。
日本もイタリアも絶え絶えだが、手がドイツの前に差し出される。それを握って立ち上がる。
「あとちょっとだよ!」
「おや、家の中に誰かいるみたいです」
「あー、ロマーノじゃないのか」
他愛も無い話をしながら、今度はゆっくり歩く。三人して歩調を譲り合うと随分と遅くなる。
それを窓から見て痺れを切らしたらしいプロイセンが家から出てくるではないか。
「兄貴っ!?」
「ちんたら歩いてんじゃあ、フゴ!」
「もー台無しじゃない、プロイセン!」
「このお馬鹿さん、バレてしまったじゃないですか」
続々とイタリアの家から出てくるのはプロイセンに続いてハンガリーとオーストリアだ。
その後ろからロマーノまで出て来て、三人して頭の上にクエスチョンが浮かぶ。
「えええ、どうしたのー?」
「あ、帰ってきたんですか」
「ブルガリアさんまで」
「なにも言わずに庭に来い、コノヤロー」
ごちゃごちゃしていたところにロマーノの声で移動すると緑覆い茂る庭にタイが料理を並べて、こちらに気づいて笑う。
「どういう」
「はいはい、日本さん、イタちゃん、ドイツと並んで並んで」
日本の言葉を遮って、ハンガリーがドイツを真ん中に三人並ばせる。そしてフィンランドから小ぶりのブーケを渡された。
「三人で持ってください」
「オーストリア、これは」
「ほら、ヴェスト! なにも言わずに持てって!」
混乱したまま受け取って、ちらりと三人して見るが全員笑っていて、
「それで、せーのって言ったら投げてください」
上に、とフィンランドが言う。
少し複雑そうなロマーノは混乱する三人が面白いのか、ふと笑う。
「じゃあ、いくぞ」
イタリアとドイツ、日本以外が「せーの」と口にすれば流されるまま、菊花と矢車菊、デイジーがあしらわれたブーケは青空に吸い込まれるかのように、
高く、高く、皆の声が響いてく、
「felicitazioni!」
「glückwünsche!」
「gratulálok!」
「glückwünsche」
「ขอแสดงความยินดี」
「onneksi olkoon!」
「честито!」
「わーわー! Grazie!」
「……Danke」
「ありがとう、ございます」
高らかに
日独伊お誕生日記念webアンソロジー「ベルリンにコタツ」様に寄稿させていただいた枢軸組です
とにかく全員だそうと思いましたら、こんなことに。喋ったことない方を登場させるのか悩んだのですが、出してしまいました
まさか、この時点でヨーグルトさんがアニメでご活躍するとは思いもよらず……
皆さんに「おめでとう」と言える世の中になりましたね、の「おめでとう」と素直に受け止められる「ありがとう」を
うおおおタイさん早く喋ってくれえええ、全員出せて満足です!
(2009/08/27・修正2009/12/24)